로그인「外の世界は危険だ、お前が行ってもすぐに怪物の餌食になってしまうだろう」
組んでいた腕を崩してタカクは続けて言う。
「しかし、あの裏の塔の最上階にまで行けるぐらい力を身につけたらこの結界を解いて外の世界へと行かせてやろう」
その言葉を聞いた日からムツヤは塔の最上階を目指す日々が始まった。
物心が付く前から塔の60階までは冒険をしていたムツヤだったが、そこから先の階段には『触手だらけのキモいし臭いしデカイトカゲ』が居る。
近付きたくなかったので、いつもそこまで行って帰ってを繰り返していた。
それでも塔は毎回入る度に使い道も名前も知らないけど、面白そうな物がたくさん落ちている。
そして、それを試して遊ぶモンスターも充分に居たので、遊ぶだけだったら退屈はしなかった。
ムツヤは塔の外まで来るとカバンから鎧を取り出す。
走る時に邪魔になるので装備はこの便利な肩掛けのカバンにしまってある。
だが、カバンは剣を入れるには少し小さいように見えた。
中身が入っていたとしても全然膨らみが無かったのだが、カバンから取り出されたムツヤの手にはしっかりと鎧が握られている。
仕掛けは簡単で、このカバンは念じながら手を突っ込むと入れておいた物をすぐに取り出せるのだ。
更にいくらでも入るし、食べ物や薬を入れても腐らないのでムツヤの大切な宝物だった。
まぁ、宝物と言ってもこのカバンは年に1度ぐらいは落ちているので家には10個以上予備はあるのだが。
その予備はただ家に置いても仕方がないので、1つはタカクが体調を崩した時にと薬をたくさん入れたカバンを作ってある。
他には多くとった魚やモンスターの肉、食べきれなかった食事も入れておく食料の備蓄用に家に1つと。
もう1つはカバンの口を広げられたままトイレの底に置かれている。こうすると臭わない上に虫も沸かず、肥溜めに持っていく時も楽なのだ。
後はゴミ箱に2つ使い、残りは特に使い道が思い浮かばなかったので家のタンスに入れてある。
このカバンは使い道によっては無限の可能性があるはずだった。
商人であれば、自分の身と馬一頭あれば無数のキャラバン隊を連れる事が出来るようなものだ。
ありとあらゆる物を入れて移動し、売って莫大な富を生み出す事が可能だろう。
戦争で使うのならば、余剰の武器をしまい込み、軍隊の移動中の負担を減らせる上に、腐らずに調理済みの食事がいつでも取り出せる夢のような武器庫兼兵糧庫にもなる。
そんな、夢のような道具がご家庭の救急箱と貯蔵庫。
それならまだマシだが、トイレにも使われている事を商人や軍師達が知ったらと思うといたたまれない。
このカバンの存在を知ったら彼らどころか世界中の人間が喉から手が出るぐらいに欲しがるだろう。
そんなカバン自体が値千金であるというのに、収集癖と貧乏性を兼ね備えたムツヤは基本的に塔で拾ったものは全部このカバンの中にしまっていた。
取れた腕がくっつく薬から、何に使うのか分からない道具まで全てだ。悪知恵の働くものがこのカバンを手にしたらと思うと恐ろしい。
話は戻り、ムツヤは裏ダンジョンである塔の扉を開けて中に入る。まず出迎えて来るのは『でっかいサワガニ』みたいなモンスターだ。
こいつはムツヤが5歳の時から戦っているのでもはや敵というより親しみのあるおもちゃのような扱いだ。
一度、飼ってみようと思い、家に連れて帰ってみたが、餌をやろうが撫でてやろうが襲いかかってくるので、諦めて手刀で粉砕した。
その際にムツヤは加減を誤って部屋中にかにみそを飛び散らせ、タカクに酷く怒られたのを覚えている。
ムツヤは剣を構え、目にも留まらぬ速度でカニを一刀両断する、カニの断面からは業火が吹き出した。
塔の中程ぐらいまでは、触っても毒のないモンスターであれば篭手を付けた手で殴るか、足で蹴るだけで充分なはずなのだが。
ムツヤは最近手に入れた『斬ると炎が出てくる剣』が面白くて気に入っており、ずっと使っていた。
次々と襲いかかってくる『紫でぷるぷるした水』みたいな奴や『デカイ蝶々』『でっかい蛇』をムツヤは殴り飛ばし、蹴り飛ばし、剣で真っ二つにして燃やし、何度も階段を駆け上がる。
そんな中、ガラスの小瓶に入った青い液体が転がっていたので拾い上げてムツヤは中身を飲み干した。
詳しいことは知らないが、甘みがあり、味がよく、落ちている薬の中では喉が乾いた時に一番ピッタリなのでムツヤはよく愛飲している。
これがありとあらゆる病気を治す幻の秘薬で、一本で豪邸が一軒買える代物だということをムツヤが知るのはだいぶ先の話だった。
階層を数えながら登ると1時間もしない内に例の『触手だらけのキモいし臭いしデカイトカゲ』の下層である59階まで来る。
アイツは近づくと吐気がするほど臭いし、触手で触られると、肌が物凄く痒くなるので今まで関わらないようにしてきた。
だが、今日こそはアイツを倒すぞとムツヤは気合を入れて階段を登る。
接近戦で倒せる自信はあったが、出来れば近付きたくないのでムツヤはその階の入り口に隠れて、カバンから弓と矢を取り出した。
塔の最上階にまで行けたら外の世界へと行っても良いと言われてからずっとこの為に練習をしてきたのだ。
ムツヤは昔から直接殴りに行ったほうが早いと弓と矢にはあまり興味が無かったので弓の扱いは初心者だった。
だが、ここ二週間で『命中するとメッチャ光ってモンスターがパパウワーってなる弓』を練習してきたので、ムツヤにはあの触手トカゲを仕留める自信がある。
最悪、我慢して剣で斬ればいいしと楽観的だ。
しかし、何度か臭いで吐いてしまうだろうから出来ればやりたくは無かったが。
片目を閉じて弓を引き絞ると、ムツヤは左手を離す。
放たれた矢は触手トカゲの顔に当たり、例の光がパパウワーと現れ、触手トカゲは部屋中にビリビリと響き渡る咆哮を出してのたうち回った。
その間もムツヤは素早く弓に矢をつがえ直し第2射、3射と矢を浴びせ続ける。
命中した矢の光が消えると、そこを中心に半径40cmほどのグロテスクなクレーターを触手トカゲの体に作る。
怒った触手トカゲは緑の毒液を放射状にばら撒いて階段の入り口の後ろに隠れていたムツヤへと降らせた。
流石に毒液を浴びたくないとムツヤが飛び出すと、待っていたとばかりにトカゲは伸ばした触手を鞭のようにしならせて襲いだす。
それでも、足の早くなる魔法を使い、部屋を縦横無尽に駆け巡るムツヤを捉えることは出来なかった。
その間も絶え間なく矢の雨が降る。
触手トカゲの発する咆哮も段々と弱くなり始め、天を見上げて一度だけ一際大きく咆哮を上げると、それを最後にその巨体は煙とともに消え去ってしまった。
今までのムツヤの経験上、モンスターの中には死ぬと死体が残るやつと煙になって消えるやつの二種類が居る。
死体が残るやつは食べると大体は美味いので食料になっていた。
触手トカゲを初めて倒した達成感などは微塵も感じず、ムツヤはアイツは煙になるタイプだったのかとちょっと関心を持っただけだ。
まぁ、肉が残ったとしてもあんなに臭いモンスターは食べる気がしないのでどうでもいいのだが。
「目標の消失を確認、我々の勝利だ!」 治安維持部隊の隊長が言うと疲れからか、しゃがみ込む者や武器をしまって街へ戻ろうとする者ばかりだった。 トロールとの戦いを終え、魔人を退けたのだから勝利を喜ぶ歓声の1つでも上がるべきなのだろうが、別に思うことがある。 あの青い鎧を着た人物は何だったのだろうと。「ムツヤと合流して街へ戻るぞ」 座り込んでいるルーに手を差し伸べてアシノは言った。「えぇ、そうね」 手を握り、ルーは立ち上がる。パンパンと服の汚れを軽く落とすとふぅーっとため息を吐いた。 ムツヤは森の奥で着替えをしている。イタガ攻防戦の功労者は月明かりに照らされてまたパンツ一丁になった。 いつもの服を身にまとった後、森の中で待っているとアシノ達がやってきた。「ムツヤ殿、良かったご無事で……」 1番心配していたモモはそう言って安堵する。「はい、モモさん達も怪我をしてないみたいで良かったです」「長くなる話は後でだ。早く戻らないと怪しまれる」「そうですね」 割って入ったアシノにムツヤが返事をした。そしてカバンに鎧とテントをしまって街へと急ぐ。 街の中へ入るとどこの家も店も明かりが付いていて賑やかだった。飲食店は街を守った英雄たちにねぎらいの料理と酒を出すことに大忙しだ。 ムツヤ達は冒険者ギルドへと向かう。ギルドマスターから聞かれる事は大体想像できたが、アシノは仲間がボロを出さないかだけが心配だった。「始めに言っておくぞ、私達は全員トロールと戦っていた。話は私に合わせてくれ」 小声でアシノが耳打ちすると全員がうなずいた。冒険者ギルドへ入ると夜中だと言うのに随分な賑やかさだ。「あ、お待ちしていましたアシノ様! クーラ様がお待ちしておりますのでこちらへどうぞ」 受付嬢はアシノの顔を見るなり近づいて声をかけた。「はい、わかりました」 ムツヤ達は奥の部屋へと通される。そこにはこの街の冒険者ギルドのマスター、クーラと幹部たちが神妙な面持ちで待っていた。「アシノ様、この度は街をお救い頂きありがとうございます」「いいえ、皆が一丸となって戦ったからです。私は大したことはしていません」「いえいえ、またご謙遜を」 そんな会話をしている間もクーラは心が別の場所にある。「それで…… お尋ねしたいことがあるのですが」 来たかとアシノは思う。「あの魔
アシノ達がトロールと戦っている時と同じ頃、ムツヤもトロールの群れと遭遇していた。「ぐおおおおおお!!!!」 1匹のトロールが叫び声を上げながら棍棒を振り上げて走り寄ってくる。 青い鎧を身にまとったムツヤは一瞬で距離を詰めて右手でトロールの腹を力いっぱい殴った。「ぐぷっ」と妙な声を出してトロールは吹き飛び、木に激突し、絶命する。木はメキメキと音を立てて折れる。 混乱するトロール達をよそに、ムツヤは次の1匹に走り、飛び蹴りを食らわせた。他のトロールを巻き込みながら吹っ飛んでいく。 トロールがムツヤを囲み始める。剣を抜いて1匹の首を刎ねたかと思うと、そのまま回転し次の1匹の腹を切り裂き、飛び上がってトロールを縦に真っ二つにする。 ムツヤの中に高揚感が溢れ出てくる。人目を気にせず思う存分戦える喜びが記憶の底から戻ってきたのだ。 背後を取った敵を足払いし、宙に浮かすとそのままサマーソルトキックを繰り出し、天高くトロールを打ち上げた。 他のトロールとの戦いでも剣で切る以外に何十匹も宙に打ち上げ、アシノや街の冒険者達が目撃したのはそれだ。 ムツヤの居る方角は月明かりを背にしているため、より一層目立つそれは街の冒険者をどよめかせた。「おい、森ン中で何が起こってんだ?」 トロールを4人がかりで仕留めた冒険者が肩で息をしながら言った。「知らねぇよ、それよりまだ来んぞ!!」 街の高台から戦いを眺め、指揮を取っていたクーラと治安維持部隊長も困惑をしている。「クーラさん、あれは一体……」「私にもわかりません」 森の中でトロールを殲滅したムツヤが、更に街へ向かうトロールを駆逐していた頃。また別の出来事が起きる。 森の奥から羽の生えた人影が真っ直ぐに街へ向かって飛んできた。 するとトロールは一旦街から引いてその人影へ向かって集まり始める。「皆さん、戦いは楽しんで頂けたかな?」 声を大きく拡散させる魔法を使っているのか、その声は戦う者たち全てに聞こえた。「ドエロスミス将軍!!」 ルーは忘れもしない昨日出会った魔人へ魔法で増幅させた大声で言った。周りも「ドエロスミス将軍?」と首を傾げている。「我が名は『ギュウドー』新たに生まれた魔人です。どうかお見知りおきを、と言っても次があるかはわかりませんがね」「ドエロスミス将軍、降りてきて戦いなさい!!」
「……、どういう事よ」 ルーはジト目でアシノを見つめた。「ここを私達の拠点にして彼奴等を迎え撃つんだよ」「この様な場所で良いのでしょうか?」 ユモトも不安そうに尋ねた。アシノは一体何を考えているのだろうと。「こんな場所だから良いんだよ、ここは街が近いからどこから攻められてもすぐに駆けつけられる」「それなら街の中に居れば良いじゃない!!」 ルーがもっともらしい意見を言うが、アシノは首を振る。「ぶっちゃけた話、あの魔人に抵抗できるのはムツヤぐらいしか居ない。だが、ムツヤは正体を隠さなくてはいけない」「そんな事知ってるわよ」「だからムツヤには正体不明の冒険者になって貰わなくちゃ困る」 ハッとモモは気付き、アシノに言う。「つまり、襲撃が始まるまでここで待ち、始まったら変装したムツヤ殿を……」「その通りだ、考えたがそれが最善だと私は思う。色々と無茶な部分はあるが、街を守るためには仕方がない」 アシノは自分の無力さに少し腹を立てていたが、冷静になることに徹した。「ムツヤ、昨日の装備に着替えておけ。カバンは私が預かる、必要な道具は今のうちにこっちの普通のカバンに移しておけ」「わがりました」 ムツヤは皆から見えない場所でユモトに手伝ってもらいながら青い鎧を身にまとった。その間手の空いている者たちはテントを2つ立てる。「ここからは持久戦だ、なるべく消耗を抑えて襲撃が来るまで待つぞ」 アシノが言うと皆うなずく。これから大きな戦いが始まると思うと、新米冒険者のモモとユモトは心臓の高鳴りが止められなかった。 それを見抜いたのか、アシノは2人に声をかける。「そう緊張するな、お前達は特訓もしたんだ。私達はムツヤのカバンを守りながらトロールを遊撃して倒していく、気を抜くのはダメだが、緊張しすぎるのも動きが固くなる」「はい、そうですね」「僕もできる限り精一杯の事をします」 モモとユモトは肩の力を抜いて言った。 それから皆はテントで武器の手入れや座って深呼吸などをしていた。アシノは寝っ転がり、ルーは爆睡している。 何故だか時間の進みが遅く感じた。 昼になっても何も起こらず、ムツヤ達は昼食を取っていた。緊張からか会話は少なく、ピリピリとした空気だったが。「やっぱユモトちゃんの料理はオイピー!!! 嫁にならない?」「ですから、僕は男です」 そ
「あ、あっすみませんムツヤさん!!」「? どうして謝るんですか?」 後ろを向いたままルーはクスクスと笑っている。モモは何だかまた嫌な胸騒ぎを感じていた。「え、これって服…… なんですか?」「わがりませんけど、着てみますか」 最初に手に取った服を見てユモトとムツヤは不思議に思う。ゴソゴソと音がしてしばらくするとムツヤが声を出す。「着替え終わりましたー」 その声を聞いて女性陣は後ろを振り返った。そこに居たのは全身黄色のタイツに身を包んだムツヤだった。「……なんだそれ」 アシノが一言ポツリと言うと同時にルーは指をさして笑い始める。「似合う、っぷくくく、似合うじゃない」「選んだのお前か!! お前街を守りたいのか守りたくないのかどっちなんだ!!!」 アシノは思わずルーの頭を引っ叩くと「パプゥ」と変な声を出した。「ふざけたわけじゃないわよ、あの黄色い服には何かとてつもないパワーを感じるの。そう、例えるなら宇宙のパワーを!!」「宇宙ですか……」 モモも若干呆れたように言う。ヨーリィは興味なさげにぼーっとムツヤを見ている。「何でずかね、この服を着ていると体を伸ばしたくなります」 言ってムツヤは手や足を伸ばし始めた。「力が溜まっていく感じがします、大きな声で数も数えたくなってきました!!」「いい加減にしろ、その服は却下だ却下」 ルーの選んだ黄色いタイツは却下されることになる。「ユモト、そいつはアホみたいに強いから見た目重視でいけ」「あ、はい、わかりました!」 そしてまた女性陣が後ろを向いてムツヤの着替えが始まった。「うーん、見た目重視ですか……」 ユモトは悩み、置かれている服と鎧を顔を赤らめながらパンツ一丁スタイルのムツヤにかざしてみた。「これとこれなんか良いんじゃないですか?」「うーん、これ入りますかね」「それじゃあ僕が広げて抑えているんで入れて下さい」「じゃあいきますよ」「あ、入った。そのまま動けますか?」「ちょっと動かしてみますね」 カチャカチャと金属音が聞こえるのでおそらく鎧を身につけているだけだろう。だがモモは何か変な胸騒ぎが大きくなる。 それからしばらくしてユモトが「よしっ」と小さく言ってから皆に声をかけた。「お待たせしました、もう大丈夫ですよ」 振り返るとそこには青い鎧に身を包んだムツヤがいた。顔も
「とりあえず、ムツヤ。連絡石で一足先にギルスに連絡を入れるぞ」「あ、はい、そうでずね!!」 馬車に揺られながら、ムツヤは連絡石を取り出して魔力を込める。「はいはい、こちらギルス。どうしたんだい?」 何かをいじっているのだろうか、カチャカチャとした声に混じって金属音も聞こえる。「ギルス、実はさっき魔人と遭遇した」 アシノが言うとギルスは驚いた声を上げる。「魔人だと!? どういう事だ?」「私にもわからない、だが事実だ」「それでね、魔人は明日トロールを使ってイタガの街を襲うって言ってるの」 いつになく落ち着いた声で淡々とルーも言った。ただ事ではない事だけは伝わったらしくギルスも冷や汗が流れそうになる。「わかった、ギルドマスターには俺から伝えておく」「頼んだ」 ギルスとの会話が終わると、馬車にはガラガラという車輪の回る音だけが響いた。 街に馬車が着くと夜も遅いというのにギルドの受付嬢がランプを持って待っていた。「お待ちしておりました、勇者アシノ様とお供の皆様!! 山賊討伐はどうなりました?」 受付嬢は聞くまでもなく山賊を討伐して帰ってきたのだろうと思っていたが、形式上アシノに尋ねた。 しかし、暗い顔をして馬車から降りてくる面々を見て受付嬢は一瞬嫌な予感がした。「山賊は退治できた、だがもっと重大な問題が起きた」 受付嬢は固唾を飲んでアシノの次の言葉を待つ。「魔人が生まれたみたいだ」 一瞬、言葉の意味が分からなかった受付嬢だが、理解すると顔から血の気が引いて大声を出した。「魔人ですか!?」「あぁ」 冷静にアシノが返すと受付嬢はその場にへたり込んで座ってしまう。「な、なんてこと、どうしたら」「ひとまずこの街のギルドの幹部を呼んでくれ、そして治安維持部隊にも連絡だ」「は、はい!!」 アシノの指示を受けて受付嬢は走り出した。ムツヤ達は無言でそれを見送る。「アシノ、私達はどうしたら良いの?」 ルーは普段の頭の回転の速さを失っていた。「落ち着け、今からそれを考えるんだろう」 ピシャリと短くそう言われ、ルーは少し冷静さを取り戻す。「え、えぇ、そうね。ごめん」「とりあえず人目に付かずに話せる場所が欲しい。ギルドは開けっ放しだから邪魔させてもらおう」「そうですね」 モモはギルドの半開きのドアを開けて中に入る。照明は付いた
道に人影が現れてモモは馬車を止めた。無言のままフードを深く被るその人影達は、棍棒を片手に持ち、こちらへと歩いてくる。 パァンパァンとアシノの打つワインボトルのフタが頭に直撃し、1人が怯む。それを合図に荷台からムツヤ達が飛び降り、モモも馬から降りて剣を構えた。 ユモトが魔法の照明弾を打ち上げて辺りを照らす。その光に照らし出されたのは大男達だった。ムツヤが飛び出し1人を蹴り倒すとフードが脱げて顔があらわになる。 それを見て全員が驚いた。 人の顔ではなく、その顔は曲がった鼻と大きな目のトロールだ。 別のトロールはモモを襲うが、自慢の一撃を無力化の盾でいともたやすく受け止められるとギョッとした顔をした。 ニッと笑ってモモは剣を横に振ると、血を吹き出してトロールは倒れる。 ヨーリィはトロールの懐に潜り込み、木の杭を投げつけ撹乱している。そこへユモトとルーの魔法とアシノのワインボトルのフタが無数に降り注いだ。 ひとまず周辺のトロールは殲滅することができた、一息ついてアシノは喋りだす。「まさかトロールがこんな風に人を襲うなんてな」「えぇ、考えられないわ」 ルーも冷や汗がながれそうになりながら答えた。「えーっと、この人達は亜人じゃないんですか?」「違う、魔物だ。知能は無いし人を襲う」 ムツヤの問にアシノは短く言葉を返す。「だから、こんなふうに待ち伏せて襲うなんてできないはずよ」 ルーが補足を入れるとユモトがもしかしてと声を上げた。「もしかして、キエーウの持つ裏の道具の仕業ですか?」 ユモトが言うとアシノは考えて返事をする。「いや、彼奴等は人間至上主義を唱えている奴らだ。亜人を襲わせるならまだしも、人間の荷馬車も被害にあっている。それにムツヤ、魔物を操る裏の道具はあるのか?」「いえ、俺が知っているだけでは混乱させて暴れさせる杖ぐらいしか知りません」 全員が地面に転がるトロールを見て何かを考えるが、何も答えが出てこない。「モンスターを操って襲わせるなんて、よっぽど飼いならした魔物か魔人ぐらいしかできないはずよ」「御名答」 空から突然声が響き、何かが降ってきた。それは槍だった。 槍はムツヤですら反応できない速度でルーを貫いた。ルーは白目をむいて口から血を流す。 ムツヤは飛び出してルーの元へと向かう。その最中カバンから回復薬を2本取り
「おぉ、流石は勇者アシノ様です!!」 村長は喜び、案内をした男はホッとした顔をする。「では、今日は宿屋に泊まった後に明日から捜索を開始します」「えぇ、よろしくお願いします」 話がまとまり、ムツヤ達は村長の家を後にした。宿屋までの道中やたら人に見られた気がするが、皆アシノが目当てだろう。「お疲れ様、勇者アシノ様」「だからそう言うのやめろ」 宿屋のベッドに座りルーは意地悪っぽくアシノに言う。 ムツヤ達は片方の部屋に集まり、話をしていた。「でもどうして依頼を受けるつもりになったのよー、確かにアラクネは珍しいから見てみたいけどさー」「あの、アラクネって何ですか?」 ムツヤが言う
ゴラテは一瞬目を見開いた後に、ゆっくりと目を閉じた。そしてまた目を開く。「そうか……」 そう一言話した後に沈黙が流れるが、再びゴラテは話し始めた。「俺もお前ぐらいの年の頃は冒険者として旅をしていたからな、止める事は出来ねぇよ」 そう言ってゴラテはお茶をすすった。ユモトは父親に気持ちを伝える。「僕は、もっと色んなものを見てみたいんだ」「それは構わねえ、構わねぇんだが……」 少し間を置いてゴラテは話を続けた。「お前、赤髪の勇者とつるんでるんだろ。それに今日葬式があったギルスとも」 ユモトだけでなくムツヤとモモも血の気が一瞬引く。「なぁ、ユモト。お前何かヤバいことに首を突っ込
遺体安置所へ行くと、棺桶に入れられたギルスのデコイがあった。「ギルドでの葬儀はこれを広場まで親しい者たちで運ぶ、私達で運ぶぞ」 大きな台車に乗せられた棺桶の周りをムツヤ達が囲む、その時ふとアシノが言った。「肝心なことを言い忘れるところだった。ギルスの死因は実験の事故で、私達の仲間になったのは、私がギルドに勧誘したからという設定だ」「わがりまじだ」 ムツヤは少し緊張気味に言った、他の皆も頷いて返事をする。「それじゃ行くぞ」 薄暗い遺体安置所を抜けると眩しい日差しが出迎えてくれた。全員でガラガラと台車を押してギルドの横を通り抜け、正面まで歩く。 そこには喪服を着た者たちが集まっ
肉を喰らい、エールをぐいっと飲んでアシノは話し始める。「ムツヤ、まず最初に言っておくがお前は何も悪くない」 悪くないと言われたが、ムツヤはまた自分はそれに近いことでもしでかしたのだろうかと不安になった。「みんな、自分が思っていたよりも数倍お前の本気が凄すぎて頭が整理しきれてないんだよ」 また肉を1口、アシノが食べ終わるまで誰も言葉を出さない。「正直嫉妬したよ。多分私が能力を失う前だったとしてもお前の方が遥かに強い」「いえ、そんなごと……」 エールを飲み干してぷはぁーっとため息を1つ、そしてアシノは笑う。「お前は凄い奴だよ、自信を持て」 ムツヤは喜んで良いのかよく分からなか