LOGIN「外の世界は危険だ、お前が行ってもすぐに怪物の餌食になってしまうだろう」
組んでいた腕を崩してタカクは続けて言う。
「しかし、あの裏の塔の最上階にまで行けるぐらい力を身につけたらこの結界を解いて外の世界へと行かせてやろう」
その言葉を聞いた日からムツヤは塔の最上階を目指す日々が始まった。
物心が付く前から塔の60階までは冒険をしていたムツヤだったが、そこから先の階段には『触手だらけのキモいし臭いしデカイトカゲ』が居る。
近付きたくなかったので、いつもそこまで行って帰ってを繰り返していた。
それでも塔は毎回入る度に使い道も名前も知らないけど、面白そうな物がたくさん落ちている。
そして、それを試して遊ぶモンスターも充分に居たので、遊ぶだけだったら退屈はしなかった。
ムツヤは塔の外まで来るとカバンから鎧を取り出す。
走る時に邪魔になるので装備はこの便利な肩掛けのカバンにしまってある。
だが、カバンは剣を入れるには少し小さいように見えた。
中身が入っていたとしても全然膨らみが無かったのだが、カバンから取り出されたムツヤの手にはしっかりと鎧が握られている。
仕掛けは簡単で、このカバンは念じながら手を突っ込むと入れておいた物をすぐに取り出せるのだ。
更にいくらでも入るし、食べ物や薬を入れても腐らないのでムツヤの大切な宝物だった。
まぁ、宝物と言ってもこのカバンは年に1度ぐらいは落ちているので家には10個以上予備はあるのだが。
その予備はただ家に置いても仕方がないので、1つはタカクが体調を崩した時にと薬をたくさん入れたカバンを作ってある。
他には多くとった魚やモンスターの肉、食べきれなかった食事も入れておく食料の備蓄用に家に1つと。
もう1つはカバンの口を広げられたままトイレの底に置かれている。こうすると臭わない上に虫も沸かず、肥溜めに持っていく時も楽なのだ。
後はゴミ箱に2つ使い、残りは特に使い道が思い浮かばなかったので家のタンスに入れてある。
このカバンは使い道によっては無限の可能性があるはずだった。
商人であれば、自分の身と馬一頭あれば無数のキャラバン隊を連れる事が出来るようなものだ。
ありとあらゆる物を入れて移動し、売って莫大な富を生み出す事が可能だろう。
戦争で使うのならば、余剰の武器をしまい込み、軍隊の移動中の負担を減らせる上に、腐らずに調理済みの食事がいつでも取り出せる夢のような武器庫兼兵糧庫にもなる。
そんな、夢のような道具がご家庭の救急箱と貯蔵庫。
それならまだマシだが、トイレにも使われている事を商人や軍師達が知ったらと思うといたたまれない。
このカバンの存在を知ったら彼らどころか世界中の人間が喉から手が出るぐらいに欲しがるだろう。
そんなカバン自体が値千金であるというのに、収集癖と貧乏性を兼ね備えたムツヤは基本的に塔で拾ったものは全部このカバンの中にしまっていた。
取れた腕がくっつく薬から、何に使うのか分からない道具まで全てだ。悪知恵の働くものがこのカバンを手にしたらと思うと恐ろしい。
話は戻り、ムツヤは裏ダンジョンである塔の扉を開けて中に入る。まず出迎えて来るのは『でっかいサワガニ』みたいなモンスターだ。
こいつはムツヤが5歳の時から戦っているのでもはや敵というより親しみのあるおもちゃのような扱いだ。
一度、飼ってみようと思い、家に連れて帰ってみたが、餌をやろうが撫でてやろうが襲いかかってくるので、諦めて手刀で粉砕した。
その際にムツヤは加減を誤って部屋中にかにみそを飛び散らせ、タカクに酷く怒られたのを覚えている。
ムツヤは剣を構え、目にも留まらぬ速度でカニを一刀両断する、カニの断面からは業火が吹き出した。
塔の中程ぐらいまでは、触っても毒のないモンスターであれば篭手を付けた手で殴るか、足で蹴るだけで充分なはずなのだが。
ムツヤは最近手に入れた『斬ると炎が出てくる剣』が面白くて気に入っており、ずっと使っていた。
次々と襲いかかってくる『紫でぷるぷるした水』みたいな奴や『デカイ蝶々』『でっかい蛇』をムツヤは殴り飛ばし、蹴り飛ばし、剣で真っ二つにして燃やし、何度も階段を駆け上がる。
そんな中、ガラスの小瓶に入った青い液体が転がっていたので拾い上げてムツヤは中身を飲み干した。
詳しいことは知らないが、甘みがあり、味がよく、落ちている薬の中では喉が乾いた時に一番ピッタリなのでムツヤはよく愛飲している。
これがありとあらゆる病気を治す幻の秘薬で、一本で豪邸が一軒買える代物だということをムツヤが知るのはだいぶ先の話だった。
階層を数えながら登ると1時間もしない内に例の『触手だらけのキモいし臭いしデカイトカゲ』の下層である59階まで来る。
アイツは近づくと吐気がするほど臭いし、触手で触られると、肌が物凄く痒くなるので今まで関わらないようにしてきた。
だが、今日こそはアイツを倒すぞとムツヤは気合を入れて階段を登る。
接近戦で倒せる自信はあったが、出来れば近付きたくないのでムツヤはその階の入り口に隠れて、カバンから弓と矢を取り出した。
塔の最上階にまで行けたら外の世界へと行っても良いと言われてからずっとこの為に練習をしてきたのだ。
ムツヤは昔から直接殴りに行ったほうが早いと弓と矢にはあまり興味が無かったので弓の扱いは初心者だった。
だが、ここ二週間で『命中するとメッチャ光ってモンスターがパパウワーってなる弓』を練習してきたので、ムツヤにはあの触手トカゲを仕留める自信がある。
最悪、我慢して剣で斬ればいいしと楽観的だ。
しかし、何度か臭いで吐いてしまうだろうから出来ればやりたくは無かったが。
片目を閉じて弓を引き絞ると、ムツヤは左手を離す。
放たれた矢は触手トカゲの顔に当たり、例の光がパパウワーと現れ、触手トカゲは部屋中にビリビリと響き渡る咆哮を出してのたうち回った。
その間もムツヤは素早く弓に矢をつがえ直し第2射、3射と矢を浴びせ続ける。
命中した矢の光が消えると、そこを中心に半径40cmほどのグロテスクなクレーターを触手トカゲの体に作る。
怒った触手トカゲは緑の毒液を放射状にばら撒いて階段の入り口の後ろに隠れていたムツヤへと降らせた。
流石に毒液を浴びたくないとムツヤが飛び出すと、待っていたとばかりにトカゲは伸ばした触手を鞭のようにしならせて襲いだす。
それでも、足の早くなる魔法を使い、部屋を縦横無尽に駆け巡るムツヤを捉えることは出来なかった。
その間も絶え間なく矢の雨が降る。
触手トカゲの発する咆哮も段々と弱くなり始め、天を見上げて一度だけ一際大きく咆哮を上げると、それを最後にその巨体は煙とともに消え去ってしまった。
今までのムツヤの経験上、モンスターの中には死ぬと死体が残るやつと煙になって消えるやつの二種類が居る。
死体が残るやつは食べると大体は美味いので食料になっていた。
触手トカゲを初めて倒した達成感などは微塵も感じず、ムツヤはアイツは煙になるタイプだったのかとちょっと関心を持っただけだ。
まぁ、肉が残ったとしてもあんなに臭いモンスターは食べる気がしないのでどうでもいいのだが。
ユモトとタノベは店に入る前に言っていた通りモンブランケーキと紅茶を注文していた。「あ、あの、わ、私達も何か注文をしましょうか?」「そうですね、モモさんはモンブランが良いんでしたっけ?」「そ、そうですね!」 店の雰囲気と目の前にムツヤが座っていることにモモはソワソワと落ち着かずにいる。「それじゃあ俺も一緒で良いかな」 テーブルに置かれた連絡石に触れると店員がやってきた。ムツヤはモンブランケーキと紅茶を注文する。「そういえばモモさんと2人きりで食事をするのって久しぶりですね」「そうですね!」 モモは短い言葉でしか受け答えが出来なくなっていた。「初めて一緒に冒険者ギルドで食べたペペカグ美味しかったなー」 そんな事まで覚えているんだと何だかモモは嬉しくなった。「そうでしたね、何だかつい最近のような、ずっと昔の事のような、不思議な感覚です」「いろんな事がありましたからねー」 と、ここでモモは気付く。自分達のやるべきことはタノベの監視であり、おしゃれな喫茶店でムツヤ殿とお茶をすることではないと。「っと、ムツヤ殿、ユモトがどうなっているか見ておかなくては」「あーそうでしたね」 2人はユモトのテーブルに聞き耳を立てた。楽しそうなお喋りが聞こえる。「僕、こんなおしゃれな喫茶店に来たの初めてかもしれません」「そうですか、ならば来てよかったです」「はい、ありがとうございます!」 そう言ってユモトは笑顔を見せる。眩しくてタノベは直視できずに視線をそらしてしまった。「何かいい雰囲気ですね」 モモは見て言った。その光景は、店内にいる誰もが男2人でお茶を飲んでいるだなんて見抜けないだろう。「あ、えっと、そ、外、晴れてよかったですね」 タノベは2人きりになった緊張からかガタガタと震えている。バイブレーションタノベだ。「そうですね、気持ちの良い天気です」 視線を外に向けながら柔らかくユモトは微笑む。その時ちょうどユモト達2人の席に紅茶とケーキが届く。「うわぁー、美味しそう!」 目をキラキラと輝かせて言う。タノベはそんなユモトを眺めていた。「それじゃ頂きましょうか」「はい、いただきます!」 ユモトは紅茶を1口飲んでからモンブランケーキを食べる。口の中に広がる甘みと栗の風味で幸せな気分になった。「このケーキ、とても美味しいです!」「
ムツヤの闘技場での戦いが終わり、夜が明けて朝になる。 ユモトはこの世の終わりみたいな顔をしてガタガタ震えているが、ルーはニコニコ笑顔だった。「ダイジョーブダイジョーブ。私達もずっと後を付けて見てるから!」「ルーさん楽しんでません?」 ユモトがムスッとして言うとルーは視線をそらす。「ソンナコトナイヨー」 あ、絶対楽しんでるなと皆が思った。 ユモトが待ち合わせの場所に向かうとタノベの姿があったが、隠れて眺めているルー達はその姿を見て驚愕した。「え、何あの格好……」 珍しくルーが引いている。タノベはダメージ加工が施されたボロボロのズボンに白のインナーと青いジャケットを羽織っていた。「何あれ、何なの? 何か戦いでもあったの? 何であんなボロボロなの!?」「あー、アレは王都で流行ってる、わざとズボンをボロボロに加工した奴だ」 アシノが言うとルーは信じられないといった声を出す。「何でそんなのが流行ってるの!? 意味わからないんですけど!!」「えー? カッコよくないですか?」 ムツヤが言うとモモが「えっ」と言って振り返る。「あれはだな。男はカッコいいと思って履くらしいが、女受けは物凄く悪い不思議な服だ」「あれが…… カッコいいのですか?」「私にも良さは分からんが」 モモは絶対ムツヤには履かせないと誓っていた。その横でルーは腕を組んで何かを考え出した。「んー、でもユモトちゃんは男だし、ある意味正解? いやでもデートでアレは清潔感が…… あーもう頭がこんがらがってきた!!」 ユモトはタノベの元へ小走りで行く。「すいません、待たせちゃいましたか?」「いえ、俺も今来たばっかりの所です」 タノベは笑顔で答える。実は1時間以上前から待っていたことは誰も知らない。「えっと、その、今日はよろしくおねがいしますね!」 ユモトがはにかんで言うとタノベはドキッとしながら返事をする。「いえ、こちらこそ」「真面目か! 二人共真面目か!!」 ルーは隠れながらツッコミを入れていた。「と、とりあえず、その、お茶でも飲みながらお話をしませんか?」「そ、そうですね、良いですね!」 ギクシャクしている男2人を見てルーはモヤモヤしている。アシノは興味無さそうに腕を組んで見ていた。 タノベとユモトは身長差があり、歩幅も違う。今はタノベの歩みにユモトが無
「それでだ、闘技場は大きくわけて3種類の試合がある。1つは木刀を使って魔法の使用は禁止の、通称『子供の喧嘩』って言われてる試合形式だ」 全員がアシノの話を聞きながら歩く、ルーは知っているらしく少し退屈そうだったが。「次が武器の使用が認められているが、魔法は禁止の試合。これは剣士の試合だな。そして、武器も魔法も何でもアリの試合だ」「つくづく思うけどさー、闘技場って魔術師に不利よねー」「魔法のみの試合や団体戦もあるが、この辺じゃあまりメジャーじゃないからな」 なるほどと全員が理解したと同時に闘技場へ着いた。アシノが入場料を払って皆で観客席に座る。「ちょうど試合が始まる頃だな。午前中だから木刀の試合だ」 木刀の試合はあまり人気が無いらしく、観客席はまばらだった。 ファンファーレが鳴ると北と南の門が開き、防具を身にまとい、木刀を手にした男がそれぞれ入ってきた。 闘技場の中央の審判の近くまで歩き、木刀を構える。 すると審判が天に上げた手を振り下ろした。これが試合開始の合図だ。 大声で叫んで男が突っ込むと相手は斜めに木刀を構えて受け止めようとするが、叩きつけるように降ろされた木刀に体が持っていかれてよろめく。 そのスキを逃さずに…… 行くものだと思ったが、2人は距離を取ってにらみ合いになる。その後もカツンカツンと迫力のない攻防を繰り広げていく。「あの、何ていうか……」 苦笑いをしてユモトは言った。「まー、宿場町の小さい闘技場で、しかも木刀の試合っつったらこんなもんだな」 あくびをしてアシノは言う。「ひょうよ、これふぁひょひんひゃのふぁふぁふぁいよ!」 ルーの姿が見えないと思っていたら売店で買ったケバブを頬張っていた。「汚えから食いながら喋んな!!」「んっ、ちゃんと皆の分も買ってきたわよ」「あ、ありがとうございます」 ユモトは受け取り礼を言った。ムツヤ達もそれと同じ様に受け取る。「んー、これ美味しいでずね!!」「でしょー?」「確かに、食べたことのない味ですが美味しいです」 皆、試合のことはそっちのけでケバブに夢中になっていた。「って、飯食いに来たんじゃないんだぞ!」「あれー? ケバブ食べながら言っても全然説得力無いんですけど?」 ルーに指摘されアシノは少し赤面する。「いや、お前が買ってくるのが悪い!」「何よその言い方
「一般の冒険者だったら指先だけだろうがお前が負けることは無いだろうが……」 アシノはムツヤをチラリと見た。「強すぎるんだよなぁ……」 はぁーっとため息をつく。他の皆も相手を秒でぶっ飛ばしているムツヤの姿が容易に想像できた。「負ける心配は無いでしょうが、ムツヤ殿が目立ってしまいますね」「だな、誤解を解くか、急いで街から逃げてバックレちまうか。どっちかだな」 どうしたもんかとアシノは天井を見つめる。沈黙で気まずい部屋にノックの音が転がった。「んー? こんな時間にだーれー?」「キエーウの奴かもしれん、ムツヤ、お前が開けろ」 頷いてムツヤはドアを開ける。そこに立っていたのはドアノブに手を掛けているタノベの姿だった。「なぁ、やっぱやめとこうぜ?」 後ろには冒険者仲間のフミヤも居る。彼はタノベを止めようとしていた。「あらー、何でここが分かったのかしら?」 ルーは冷や汗をかきながら引きつった笑顔をする。「酒場から後ろを付けてきました!」「そういうのストーカーって言うんだぞ」 アシノはジト目でタノベを見つめていた。部屋を見渡してタノベはプルプルと震える。「1つの部屋に女の子を集めて…… あなた、エッチなことしたんですね!!!」「しとらんわ!!」 アシノがツッコミを入れるがタノベは引き下がらない。「部屋に女の子を集めて男が1人だけ…… 何も起こらないはずが無いでしょう!!!」 ルーとアシノは珍しく同じことを思っていた。「あーコイツめんどくせー」と。「タノベ殿、ムツヤ殿が言っていたハーレムというのは誤解なんだ」「じゃあこの状況は何ですか!?」 モモが弁明をするが、あまり意味がなかったみたいだ。「あー、じゃあ論より証拠っつーわけで。ユモトお前が男だって証拠見せてやれ」「な、ななななにを言ってるんですか! こんな可愛い子が男の子のはずがないでしょう!?」 タノベは慌てて言う、ユモトは赤面してそれを聞いていた。「僕が見せてムツヤさんの疑惑が晴れるのならば……」「そうよ! 減るもんじゃないし!」 ユモトは服の裾を持ち上げてその宝物庫の宝玉を御開帳しようとしている。「ユモトさん!? そんな事しちゃダメです! おのれ、こんな変態じみたことをユモトさんにやらせるなんて……」 タノベはすぅーっと息を息を吸って吐く。そして鋭い眼光でムツヤ
「えっと、突然お邪魔して申し訳無い。俺はタノベと言います」 軽く自己紹介をすると返事が帰ってきた。「こんばんはー、俺…… じゃなかっだ、わだしはムツヤって言いまず」 酔っ払った上に訛っているが、敬語を使っている辺りいいヤツなのかもしれないなとタノベは認識を改める。「私はモモだ。訳合って今はムツヤ殿の従者をしている」 オークの女はそう言う。従者をしているとはどういった事情なのだろうかと少し考えた。「ヨーリィです、ムツヤお兄ちゃんの妹です」 あまり似ていない兄妹だなと思った。短く言うとヨーリィはアスパラガスをむしゃむしゃ食べ始める。「えっと、ユモトです。よろしくおねがいしますね!」 美人ぞろいのパーティだが、やはりタノベにはユモトが一際輝いて見えた。「どうもどうも、よろしくお願いしまーす! 所で皆さんはどういう集まりなんですか?」 フミヤは酒を飲みながら尋ねる。すると一瞬空気が重くなった気がした。「そんなのどうだっていいでしょーよー!」 ルーはフミヤの背中をバンバンと叩く。「そ、そうですね、僕たちはただの冒険者の集まりですよ」 明らかに何かをはぐらかされている事にタノベは疑問を持ったが、知り合ったばかりの相手達に深入りはやめておこうと何も聞かないことにした。 その後は他愛のない話に花を咲かせたる。冒険者の面白話に笑ったり心配した顔をしたりするユモトにタノベはより惹かれ始めていた。「それじゃあ皆の夢って何なの? 俺は冒険者としてお宝を探して一攫千金当てること!」 フミヤは自分の夢を語り始めた。見ているこっちが恥ずかしいとタノベは視線を持っているジョッキに移す。「私もお金持ちになりたーい!!!!」 ルーは両手を上げて騒いでいる。「私はムツヤ殿の夢を叶えることだ」 モモは酔って少し赤くなった顔のまま目をつぶって言った。「私は大切な人を守ること」 珍しくヨーリィも話に乗っかった。意外なことにムツヤ達の視線が集まる。「その大切な人ってルーお姉ちゃんの事かなー?」 うざ絡みに対してヨーリィはジュースを飲んでスルーをした。「え、えーっと、僕は…… いえ、僕もムツヤさんに恩返しがしたいです。なのでムツヤさんの夢を叶えてあげることですかね」 ユモトもぽやんとした顔をしながらもじもじと言う。「まー、恩返しってんなら私もムツヤっちに
「ムツヤ、魔力が一気に回復するポーションでも無いのか?」 アシノがムツヤに聞いてみると当たり前のように「ありますよ」と返事が来たが、ルーが待ったをかける。「ムツヤっちならまだしも、ユモトちゃんが魔力を一気に回復させたら体中の魔力のバランスが狂ってショック死しちゃうわよ!!」「確かに、危ないかもしれませんね」 ユモトもあははと苦笑いをする。魔力は普通に売られているポーションを使っても回復を促進させるだけで、急な回復はしないのだ。「んなことは知ってるけどよ、コイツなら副作用なしで回復するモンでも持ってんじゃないのかって聞いてみただけだ」 一応アシノはムツヤが取り出したオレンジ色の薬を受け取って眺めてみる。そしてルーに渡した。「ちょっと舐めてみていい?」「おう、死ぬなよ」 好奇心に負けて手のひらに1滴薬を垂らし、ルーは舐めた。瞬間ビリビリとした感覚が口の中に広がった。「うえええええ、純度高すぎ!!! 水ちょうだい水!!」 ルーはバタバタと騒ぎ始め、ムツヤが水を渡すと一気に飲み干す。「あー、確かにこれは効くわ。でも研究してから使ったほうが良いかもね」 ルーは口から水をこぼしながら言う、仕方ねえなとアシノはユモトに尋ねる。「次の街まで後ちょっとだ、ユモト歩けるか?」「は、はい大丈夫です!!」 大丈夫と言うがユモトの顔色はあからさまに悪かった。「ムツヤ、おぶってやれ」「わがりまじだ」 アシノに言われ、ユモトが遠慮するより早くムツヤは背負い上げる。「ユモト、無理な時は無理と言うのも大事だぞ」「あ、えっと、すみません……」 そう言ってユモトはムツヤの背中に顔をうずめて抱きついた。何故かいい匂いがするがユモトは男だ。「モモは大丈夫か? ヨーリィも平気か?」 アシノは他の仲間の無事も確認した。「はい、私の怪我はもう治りましたので」 モモは胸に手を当て言い、ヨーリィも返事をした。「私はもう体を維持するだけの魔力は貰った」「それじゃ出発するか、日が暮れるぐらいには街に着くからな」 予定時間よりはだいぶ遅れたが、ムツヤ達は街を目指して歩き出す。 日が暮れてしまったが、まだ明かりを付けなくてもも周りが見えるぐらいの頃、ムツヤ達は街へと着いた。「着いたぞ、ここがカラスギって街だ」 アシノが軽く街の名前だけ言う。まばらに光を放ってい
「……、どういう事よ」 ルーはジト目でアシノを見つめた。「ここを私達の拠点にして彼奴等を迎え撃つんだよ」「この様な場所で良いのでしょうか?」 ユモトも不安そうに尋ねた。アシノは一体何を考えているのだろうと。「こんな場所だから良いんだよ、ここは街が近いからどこから攻められてもすぐに駆けつけられる」「それなら街の中に居れば良いじゃない!!」 ルーがもっともらしい意見を言うが、アシノは首を振る。「ぶっちゃけた話、あの魔人に抵抗できるのはムツヤぐらいしか居ない。だが、ムツヤは正体を隠さなくてはいけない」「そんな事知ってるわよ」「だからムツヤには正体不明の冒険者になって貰わなくちゃ
藁にでもすがりたい思いのモモは目の前の男を信じてみることにした。 妹も仲間もどの道、何らかの手を施さなければ死んでしまうかもしれない。「信じるな! そいつは嘘を付いている! そんな薬が存在しているはずがない!」 声のする方をモモとムツヤは同時に見た。 茂みに殴り飛ばされたオークの一人が顔を抑えながら立ち上がり、モモに警告を入れる。「バラ…… しかしもう何も手が……」 バラと呼ばれたオークの男は脳震盪から回復し、その間は体が動かせなかったが、数分前からぼんやりとした意識はあった。 そして、二人のやり取りを聞いていて思った。自分は一瞬で治せるが他人は治せない魔法
ムツヤは『割ると辺りのクサイ匂いが消える青い玉』を触手トカゲの消えた場所に投げる。 これは割れた場所を中心として、約半径30メートルの空間に漂うどんな有害物質でも除去できる代物なのだが、普段は使い道が見つからないのでトイレのちり紙の横に山積みにされていた。 大きい方をした後のエチケットだ。 もちろん、これも外の世界で1玉売れば1週間は酒場で豪遊が出来る価値がある。 部屋は快晴の空の下で心地の良い風が吹いたように、爽やかな空気になった。 さっきまでの匂いを嗅いでいたムツヤは普段より余計に清々しく感じている。 ムツヤは知らない事が多い。 触手トカゲの吐き気を催す臭いは、常人であれ
ムツヤ・バックカントリーは今、外の世界に出て来て早々パンツ一丁にされてしまった。 月明かりに照らされるムツヤ少年の前にはオークが3人。その内1人は人間の美的感覚で見ると美人だ。 拾った本で外の世界の事を勉強していたムツヤは最悪の展開に気付いてしまい、一瞬で血の気が引いてしまう。「あ、あの、オーグさん、ひとつぅー…… いいですか?」「なんだ」 ムツヤは今にも泣きそうな、震えた声でオークへと質問をする。「ご、これから私は、あのー、いわゆる『っく、殺せ』って奴んなるんでしょうか? お、おれ、外の世界で女の子とは、ハーレムしだかったのに、お、オーグに」「何を気持ち悪いことを言っている







